みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

モバイルバッテリーといえば Anker。というイメージを持たれる方は多いのではないでしょうか。同社はモバイルバッテリー黎明期から日本市場に存在し、革新的な製品で業界をリードする世界的なメーカーです。近年では、Apple Store での取り扱いも開始されるなど、大手ガジェットメーカーの位置を固めつつあります。

今回はそんな Anker より新たに販売が開始された「Anker PowerCore 10000 PD Redux 25W」をご紹介します。世間的には好評を得ている製品ですが、タイトルにもある通り個人的にはかなり微妙な製品だと思っていますので、そういう意見もあるんだなー。程度にご覧いただければと思います。

※レビューで使用している製品は、2021年の初回ロットとなります。2023年現在、付属ケーブルおよびポーチは同梱が終了しており、当記事で言及している内容はほとんど意味をなさないものとなっています。その点にはご留意の上、お読み下さい。

・開封&レビュー

パッケージ

内容物は本体、充電用ケーブル、ストラップ、ポーチ、取り扱い説明書類

本体

本体裏面

本体側面のストラップホール

端子はUSB-AとUSB-C(in/out)

電源ボタンおよびバッテリー残量インジケーター

・付属のケーブルが…

本製品に付属する充電用ケーブルは、デバイスを破損させかねない非常に危険なものです。

同梱されているケーブルは、USB-C to USB-C(2.0)ケーブルに USB-C to USB-A 変換アダプターが付属しているものです。ここに付属する変換アダプターは、場合により USB-A to USB-A という規格に定義されていない危険なケーブルを作り出すことが可能なため、製品設計時の禁止事項としてガイドラインに記載されています。

USB-C を USB-A に変換するのは規格で明確に禁止されている

使い方としてはこんな感じ

ちなみに、USB-C to USB-C(2.0)ケーブルとしては問題ない

USB-A to USB-C ケーブルとしてはアウト

USB-A to USB-C ケーブルでは、56kレジスタを使用することが定められており、今回のように10kレジスタをこのタイプのケーブルで使用した場合、設計以上の負荷がかかりデバイスを故障させてしまう場合もあります。

本製品に付属するケーブルは、規格に定義されていない危険な変換アダプタが付属している+USB-A to USB-C ケーブルとしても規格違反という状態になっていますので、デバイスを破損から保護するために絶対に使用しないでください。

・USB 端子をチェック

本製品の USB-A 出力の仕様は5V = 3A / 9V = 2A / 12V = 1.5A、USB-A Protocol 出力で4.5V = 5A / 5V = 4.5A となっています。

この表記ではよくわかりませんが、チェッカーを用いて対応する充電規格を調べたところ、Apple 2.4A、Samsung 2A、Quick Charge 2.0/3.0、Samsung AFC、Huawei FCP/SCP に対応していることを確認できました。

USB-C の出力仕様は、5V = 3A / 9V = 2.78A、USB-C PPS 出力:3.3-6V = 3A / 3.3-11V = 2.78A(最大25W)となっています。

<4> の PPS 以外は記載されている表記と一致する

USB-PD 以外にも Quick Charge に対応する

Anker 製品ではお馴染みとなりつつある USB-C ポートの USB-PD 以外の急速充電規格への対応、PPSの表記と通知される数値が異なる問題が今回も検出されました。もはやお家芸ともいえる仕様ですので、この辺りについてグダグダいうのは止めようと思います。

が、怪しい仕様であることは付け加えておきます。

なお、USB-A および USB-C ポートの過電流保護機能については、許容範囲内に収まっていることが確認できました。

・モバイルバッテリーとしての性能

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本製品のバッテリー容量は、10,000mAhとなっています。それに対し、実際に有効に使用できる容量である実行容量は33.52Wh(約9,059mAh)となりました。これは、表記容量の90.59%に値し、効率の良いモバイルバッテリーはこの数値が80%以上であることから、本製品はエネルギー変換効率に優れた製品だといえます。

なお、本製品は100Wh以下のバッテリー容量であるため、手荷物に限り航空機への持ち込みが可能です。

※本製品のエネルギー効率は同クラスのモバイルバッテリーとしては高すぎる数値であるため、正確な容量は3,500mAh程度の18650電池3本の10,500mAh辺りであると推測できます。

・実際に使ってみた

本製品で iPhone SE(第2世代)を充電している最中の電圧をチェックしてみました。

9.02V/1.90A(17.14W)USB-C

5.01V/1.35A(6.8W)USB-A

USB-C および USB-A ポートからの出力を確認したところ、USB-C ポートは USB-PD を用いた高速充電、USB-A ポートは Apple 2.4A による急速充電ができていることを確認できました。ただし、両方のポートを同時に使用した場合、2ポート合計で15Wの出力になるため、2台同時にデバイスを充電すると充電速度はかなり低下します。

・使用感

本製品をしばらく使ってみた感想として、なんら特別なことはない「普通のモバイルバッテリー」だと思いました。

USB-C(PD) に対応していないモバイルバッテリーをお使いの方が本製品を手に取ると、対応デバイスを高速に充電できる点、モバイルバッテリー自体を2時間半程度で充電できることに驚かれると思います。ですが、既に USB-PD 対応のモバイルバッテリーを使っている方がわざわざ買い替える程のものではないと思います。

もちろん、本製品は充電最適化機能の PPS に対応しているため、PPS 対応デバイスを利用している場合はより効率よくデバイスを充電することができますし、Galaxy などの一部スマートフォンでは25Wというこれまでよりも大きい出力に恩恵を受けられる場合もありますので、これらに該当する場合は買い替えの意義は大きいかと思います。

ただし、近年のデバイスの内蔵バッテリーの大型化により 10,000mAh では充電回数の面で少し物足りない場合もあるかと思います。参考までに各デバイスの充電可能回数を記載しておきます。

・iPhone 12 mini 約3.5回
・iPhone 12/12 Pro 約2.8回
・iPhone 12 Pro Max 約2回
・iPhone SE(第2世代) 約4.3回
・iPad 8  約0.9回
・iPad Pro 11(M1) 約1回
・iPad Pro 12(M1) 約0.7回

・余計なお世話

筆者が本製品をイマイチといったのは、上記の通り付属のケーブルがとんでもないものであることが最大の要因です。しかし、使っているうちにそれ以外にも不満が出てきました。これらに共通するのは「余計なお世話」という感覚です。

本製品の特徴の1つに、本体にストラップホールが付いており、ストラップを付けられるというものがあります。単刀直入にいえば、この機能は「余計なお世話」以外の何者でもありません。

筆者は、この機能がモバイルバッテリーに必要な機能だとは全く思いません。本製品には持ち運び用のポーチが付属しており、そこにも紐があります。持ち運びの際に紐が欲しいなら、ポーチの紐で必要十分です。同社の PowerCore Solar など、アウトドアでの使用を想定し、防水機能を付けたモバイルバッテリーに対し、ポーチの代わりにストラップホールを付け、持ち運び易さを訴求する行為は水濡れの観点から見て理解ができるものです。しかし、日常使いをメインに想定した製品でストラップホールとポーチの2重付けは、機能の重複のように感じます。

なぜこれでイケると思ったのか

先述の危険なケーブルといい、メーカーの「こうすれば便利でしょ?」というズレた感覚をユーザーに押し付けた上で「付加価値だ」と主張する行為は、「余計なお世話」以外の何者でもありません。これには2000年代の日の丸家電メーカーを彷彿とさせるものがあり、「悪しき歴史は繰り返すのか」と感慨深くもあります。

・総評

「もう Anker のモバイルバッテリーを買うのは止めようかな」と思わされました。

本体の仕様に怪しい点があることや、それについて尋ねても放置するカスタマーセンター(過去製品での話ですが)、どうでも良い機能と安全性に問題のある使えもしないケーブルを押し付けてくるなど、消費者ニーズとメーカー思想のすれ違いが甚だしい状態に陥っているように感じています。

そんな細かいこと気にする?という声が聞こえてきそうな程、細かいことを言っている自覚はあります。が、やはり自分自身の中で何か引っかかるものがあるので、否定的な見解となりました。とはいえ、一定以上の知識がある方が使うには問題ない製品だと思いますので、運用に自信がある方は本製品を選んでも良いかもしれません。

最終更新日:2023年10月20日

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