みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

今回は、Anker 736 Charger (Nano II 100W) をレビューします。本製品は最大100Wの出力が可能な USB-C*2、USB-A*1 を搭載した3ポート USB-C&A 充電器です。

本記事の公開・修正についての詳細はこちらよりご確認いただけます。なお、本記事で使用した製品は初期ロットであり、出力の改善を行ったリニューアル版ではありません。

※既に販売が再開されている様子ですが、同社はこれらが改善品か否かを言及しておらず、本誌でも確認を行っていないため詳細は不明です。販売再開後の製品詳細についてのお問い合わせは、お答えできることが何もありませんのでご遠慮下さい。

・Anker からのリリース

本記事の公開を受け、販売元の Anker が検証を行い、以下の声明を発表しています。

本製品は法的に求められているPSE認証を取得しており、またUSB-IFが定めたUSB Power Delivery(以下USB PD)への互換性があり、PCへの充電など通常のご使用においては本事象の再現性はなく、安全にお使いいただけます。

なお、PCの充電など通常の使用環境下では、3Aを超える電流をシンク側(PC等デバイス側)が要求する場合、ソース側(充電器側)が接続したケーブルのeMarkerの有無を確認し、シンク側に供給可能な電流の範囲を送信します。シンク側はその範囲で最適な負荷電流を決定します。しかし、電子負荷装置を用いた特殊な環境下で、シンク側(電子負荷装置)がその電流の範囲を無視し、仕様以上の電流を強制的に要求することで、ソース側である本製品から5Aの電流を引くことは理論上可能です。

以上を踏まえ、一般的にお客様がPC等のデバイスを本製品で充電される際に過電流になるリスクはなく、本製品は法的に定められている過電流保護機能を備えており、安全にご使用いただけます。また、現時点でお客様から事故報告は一件もいただいてはおらず、法的にも求められておりませんが、上記のような特殊環境において本事象の再現が可能であることを鑑み、本日以降に製造する本製品について、さらに安全にお使いいただけるよう、接続しているケーブルがeMarker非対応の場合も、ソース側でも制御する仕様にアップデートをしております。

繰り返しになりますが、本製品をご使用のお客様におかれましては、PC等の充電等一般的な使用の範囲においては、同様の事象は発生しませんのでご安心ください。もし本日までにご購入いただき使用にご懸念がある場合は、製品購入後30日以降でも返金対応を致しますので下記弊社カスタマーサポートまでご連絡ください。

同社のリリースによると、電子負荷装置を使用すると仕様以上の電流を強制的に流すことが可能であったようです。(本誌の以下検証を参照)

ただし、一般使用においてこのような事態は発生しないということ、上記のような環境においても有効に保護機能が動作するように改善するということです。

・開封

パッケージ

量販店パッケージで登場

内容物は本体と取扱説明書類

本体(反対側の側面にロゴはない)

本体ポート

プラグは折り畳み式

混迷を極める各種表記(クリックで拡大)

・出力仕様がカオスすぎる

Anker のマルチポート USB-C 充電器は、出力仕様がカオス過ぎるという特徴を持っています。

本製品もその例に漏れず、非常に複雑な仕様を実装しています。メーカーもそのことを重々承知しているようで、今回も下記のような画像が作成されています。

(クリックで拡大)

もはやこの点については何も言及しませんが、全く直感的でない何気に使うと何が何だかよくわからなくなる仕様でありあまりにも使い勝手が悪いように感じています。

また、こちらもお馴染みですが、USB-PD 規格では、USB-C と USB-A の独立・分離実装を求めています。そのため、USB-C を使用中だからといって USB-A の出力が減る、その逆の A を使用中だからといって C の出力が減る。という仕様(CとAの回路を一緒にしてしまう)は、誰が見ても明らかな規格違反となります。

とはいえ、規格上そうなっている。というだけであり、実用上の問題があるのか?と言われれば「ほぼない」ため、あまり気にする必要はないかと思われます。

・本体の仕様をチェック

ここでは、USB-C ポートの Power Data Object(PDO)と USB-PD 以外の急速充電への対応の有無、過電流に対する保護機能の3点を確認しました。

PDO は表記よりも大きい値の場合、デバイスを過電流により破損させる恐れがあり、小さい場合は景品表示法上の問題が生じます。また、USB- PD 規格では USB-PD 以外の急速充電への対応を禁止しています。過電流に対する保護機能は、異常発熱・出火などを防ぐ目的の保安機能として実装されています。

問題のある製品の場合、主にこのいずれかのポイントで問題点が露見するため、本誌ではこの3つの検証結果を主に使用しています。

なお、USB-C 1/2 の100W出力は共通であるため、USB-C 1 の結果を掲載しています。

確認の結果、メーカーが提供する PDO と実際の PDO が一致しており、PPS を含めて問題点は見当たりませんでした。

ただし、急速充電に関しては USB-PD 充電器は USB-PD 以外の急速充電規格に対応することを禁じているガイドラインに反し、Quick Charge などへの対応が見られます。ですが、こちらについては Anker 製品ではお馴染みとなる仕様かつ、実装方法に問題は見受けられなかったため、安全性への影響はありません。

また、USB-A ポートは Quick Charge 3.0 などにも対応していることを確認できました。

次に、過電流に対する保護機能の動作状況を確認しました。

確認の結果、5V-20V/5A および USB-A ポートの動作には問題はありませんでしたが、3Aケーブルを接続した際に有効になる 20V/3A(60W)制限においても 20V/3A を超え、100Wまでの出力が確認できました。

PDO では3Aケーブルの識別機能が正常に動作していることを確認できましたが、実際に出力を開始すると3Aケーブルでも20V/5A(100W)を供給してしまうようです。

USB-PD では60W以上の電力を供給する場合には、5Aケーブル(eMarker の実装)でなければ行ってはならないことになっているため、この仕様は規格違反であり、ケーブルの設計を超えた電流が流れてケーブルを破損させる可能性や出火の可能性があるものです。

大切なお知らせ

本記事のリリース当初、3Aケーブルでは20V/5A(100W)の供給を行なってはならないとお伝えしておりましたが、これは間違いです。

充電器側はケーブルの種類を確認する責任しか有しておらず、受電側(デバイス)が USB-PD 規格に準拠しない設計になっている場合、3Aケーブルにおいても、20V/5A(100W)が供給できるようです。

本誌が検証で使用した負荷抵抗器は USB-PD に特化していない汎用製品であるため、この現象が発生したものと考えられます。但し、同じ機材を使用して行った過去の同社/他社製品の検証において、同様の症状は見られませんでした。

Universal Serial Bus Power Delivery Specification, 4.4 Cable Type Detection, 6.4 Data Message および 8.2 Device Policy Manager より

また、過電流はデバイス破損の可能性もあることから、かなり危険な状態であるといえます。

大切なお知らせ

過電流にデバイスの破損の恐れがあるのは事実ですが、メーカーの試験によると、本誌の検証で確認できた事象は通常使用では起こらないということです。

なお、メーカーはこの仕様を改善した改善版のリリースを予告しています。

このことから、通常実施する MacBook や iPhone・iPad を接続しての充電電圧チェックは中止としました。(Lightning ケーブル側の保護機能でワンチャン大丈夫な可能性はありますが)

※3Aケーブルは Anker 製、Playa(Belkin)製を使用しましたが、いずれも同じ結果でした。また、検証に使用した USB-C 2.0 3A ケーブルが1本使用不能になりました。

大切なお知らせ

通常使用において、過電流の心配はない(メーカー調べ)とのことですので、デバイスを接続した場合でも安全に使用できると推定されます。

なお、破損したケーブルは Anker 製であり、焼損や目立った損傷はありませんでした。

・使用感

検証を行った結果、かなり危険な状態であることが確認できたため、一切使用していません。

使用例

もし仮に使用できたとしても、3ポート使用時は45/30/18Wという出力配分になるため、100W製品の割にノートパソコンを充電するには不向きでしょう。ただし、iPhone や iPad、AirPods などの同時充電用としては、設計上の仕様では十分なものだと思います。

サイズ感に関しても、100W充電器としては小型な部類であり、1ポート使用を前提とした利用でも選ぶ価値はあったと思います。発熱はギリギリ触れるか否か(100W出力/1.5時間)であり、本体がそこそこ発熱することは覚悟しておく必要があります。

大切なお知らせ

繰り返しとなりますが、通常使用に問題はありません。(メーカー調査)

また、この時点でデバイスを用いた出力チェックを行った場合、実使用では問題がなかったことを確認できたと推定されます。

・改善品をどう捉えるか

本記事の初期状態で数多くの読者の皆様、メーカーの皆様にご迷惑をお掛けしたことを、この場でもお詫び申し上げます。

また、記事公開直後より沢山の技術的見解、ご意見を頂戴しており、皆様の貴重なお時間を本誌に割いていただいたことに感謝申し上げます。

冒頭のメーカーからのリリースの通り、本誌が指摘した問題を修正した改善版のリリースがアナウンスされています。

こちらについて、筆者としては「安全性をさらに高めるものである」と考えており、本記事公開後10日程度で改善版のリリースを決定し、製造を行える体制については、素晴らしいものだと感じました。また、多大な影響を与えてしまったとはいえ、本誌のような取引も何もない得体の知れない媒体をチェックし、製品改良を行う姿勢には頭が上がりません。

しかしながら、従来と同じ検証を実施したのにも関わらず、同系のシリーズ製品や過去製品において、今回問題となった挙動は一切確認されていませんでした。

本誌が使用している負荷抵抗器は一般的な電気製品の開発・試験に用いられるものであり、Anker も同等製品でテストをおこなっているとは思います。いくら特殊な環境でしか発生しない問題とはいえ、一般的に設計・開発時に使用する機材を使用したテストで判明するような不具合を残し、販売を開始している点はメーカーの体制に問題があるように感じます。

ここにまできて言い訳か!反省しろ!とお叱りを受けると思いますが、決して私自身のミスをなかったことにしようとしている訳ではありません。

・総評

筆者は、本記事の初期執筆が完了した時点で製品を廃棄してしまったため、製品の良し悪しについてコメントをするのは控えさせていただきます。

ただし、販売分の返金対応と速やかな製品改良が必要な製品を販売している点については問題がないというには苦しい状態であり、繰り返しになりますが、この点についてはメーカーのチェック体制に問題があると思います。

また、使用感の観点から考えても、混沌を極めている出力仕様や3ポートになると減少してしまう合計出力など、あまり使い勝手が良いものとはいえないと感じました。

最終更新日:2022年11月11日

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