みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

今回は、エレコムより販売されているリン酸鉄リチウム電池を採用したモバイルバッテリー「DE-C39-12000WH」をレビューします。

本製品は、新世代の充電式電池「リン酸鉄リチウム電池」を採用したモバイルバッテリーで、本稿執筆時点では本製品がモバイルバッテリーへの唯一の採用製品となります。

なお、本製品は USB-PD 規格に準拠しておらず、互換性の問題が生じる可能性があります。

・開封

パッケージ

内容物は本体、充電用ケーブル(C to C)、取扱説明書

本体

左から残量インジケーター、USB-C、USB-A

電源ボタン

各種表記(PSEマーク有)

表面にはメーカー名がエンボス加工されている

残量インジケータは4段階

低電力モードを使用するとグリーンのランプが点灯する

・互換性に影響を与える規格違反が存在

本製品には、メーカーサイトやパッケージを見るだけでわかる USB Power Delivery 規格に準拠しない点があります。

それは、USB-C ポートの5V出力が 5V/2.4A となっている点で、これは USB-PD 規格のパワールールに準拠しないものとなります。

公式ページなどにも堂々表記

この仕様は、一時期の Anker 製品でよくみられた仕様と全く同じもので、一部のデバイスで充電ができないといった互換性の問題を引き起こすことがあります。

・本体の使用をチェック

ここでは、USB-C ポートの Power Data Object(PDO)と USB-PD 以外の急速充電への対応の有無、各ポートの過電流に対する保護機能を確認しました。

PDO は表記よりも大きい値の場合、デバイスを過電流により破損させる恐れがあり、小さい場合は景品表示法上の問題が生じます。また、USB- PD 規格では USB-PD 以外の急速充電への対応を禁止しています。過電流に対する保護機能は、異常発熱・出火などを防ぐ目的の保安機能として実装されています。

問題のある製品の場合、主にこのいずれかのポイントで問題点が露見するため、本誌ではこの3つの検証結果を主に使用しています。

確認の結果、全ポートともメーカーが提供する PDO と実際の PDO が一致していました。また、PPSの実装方法にも問題は見受けられません。

しかしながら、先述した通り、USB-C ポートの出力仕様は規格に適合していません

また、対応する急速充電規格についても、USB-PD 規格上では USB-PD 以外の急速充電規格へ対応することを禁じていますが、本製品では AFC などに対応していることがわかりました。

ただし、これらの機能を安全に実装することが可能であり、本製品は実装方法に問題は見受けられなかったため、通常使用に問題はありません。

USB-A ポートについては、特に問題はありません。

次に、過電流に対する保護機能の動作状況を確認しました。

過電流に対する保護機能は、異常発熱・出火などを防ぐ目的の保安機能として充電器には必要不可欠なものです。

確認の結果、USB-C ポートの5V/2.4A出力において、公称値を1A以上超過する出力が確認できました。しかしながら、先述の通り5V/2.4Aという出力が問題であり、通常は5V/3Aとすべきであるため、その観点からいうと、0.5A程度の超過となります。

USB-PD 規格に完全に準拠したデバイスであれば、5V/2.4A以上が引き出されるということはありません。しかし、規格に沿わないデバイスであっても、5V/3A程度は許容できると推定されるため、本製品がデバイスを破損させるような大きな問題を生じさせるリスクは低いでしょう。

なお、9V および 12V、USB-A ポートの過電流保護機能に問題は見られず、正常に動作しているといえる状態にあります。

最後に、iPad 10、iPad 9、iPhone 14 Pro、iPhone SE(第2世代)での充電状況を確認します。

確認の結果、全てのデバイスでそれぞれの高速充電が作動していることを確認できました。また、USB-A ポートから1A以上の充電も確認できました。

・モバイルバッテリーとしての性能

次は、モバイルバッテリーとしての性能を確認します。

一般的にモバイルバッテリーの表記容量(本製品:12,000mAh)は、その全てを充電に使用できるわけではなく、発熱や電圧の調節により一定のロスが生まれます。このロス率が20%程度である製品は、モバイルバッテリーとして性能が高い製品と呼べます。

クリックで拡大

本製品のバッテリー容量の表記は、12,000mAhとなっています。それに対し、実際に有効に使用できる容量である実効容量は32.53Wh(約10,166mAh)となりました。これは、表記容量の84.71%に値し、効率の良いモバイルバッテリーはこの数値が80%以上であることから、本製品はエネルギー変換効率に優れた製品だといえます。

本製品は100Wh以下のバッテリー容量であるため、手荷物に限り航空機への持ち込みが可能です。

なお、本製品に採用されている電池はリン酸鉄リチウム電池であるため、従来のリチウムイオン電池と若干仕様が異なっています。

クリックで拡大

一般的なリチウムイオン電池の場合、3.7V出力であるため、この値を使用して実効容量の算出を行いますが、本製品は3.2V出力と表記されているため、この値で計算を行っています。

・リン酸鉄リチウム電池の恩恵

この記事の冒頭より、リン酸鉄リチウム電池という単語を連呼してきましたが、そもそもなぜ筆者が強調しているのか、イマイチわからない方もいらっしゃるかと思います。

パッケージにも一部記載がありますが、リン酸鉄リチウム電池は、現在、充電池として主流であるリチウムイオン電池の弱点を克服した二次電池です。

リン酸鉄リチウム電池は、寿命、安全性、自己放電率、製造時の環境負荷がリチウムイオン電池と比べ、大幅に改善されています。

本製品の場合、約1,000回の充放電サイクルをセールスポイントにしています。これは、従来のリチウムイオン電池と比較して2倍の性能です。これにより、従来製品よりも単純計算で2倍長い期間、製品を使用することができるようになります。

モバイルバッテリーなどの充電式電池を搭載する機器は、使用を重ねるにつれ、電池が劣化し、本来の性能が失われます。本製品も劣化を止めることはできないものの、使用不可となる時間が従来製品よりも単純計算で2倍長いということになり、長期間に渡り使用でき、経済性に優れます。

リン酸鉄リチウム電池の寿命の長さは、電池の素材となるリチウムなどの天然資源や、採掘による環境負荷を低減させることにも役立ちます。

リチウム採掘には、土壌劣化、水質・大気汚染、生態系、食糧生産に害を及ぼすことが指摘されている

従来のリチウムイオン電池はコバルトを電池に含んでおり、コバルトの採掘にはリチウムの採掘時に抱える問題に加え、コバルトの毒性による発がんリスク、コバルト埋蔵地が紛争地域に点在し、採掘に多大なリスクが伴うこと、強制労働や児童労働などにより採掘が行われているなど、非常に深刻な問題が多く存在します。

しかし、リン酸鉄リチウム電池は、リチウム、鉄、リンを主な原料として構成されており、一般的にはコバルトは使用されていません。

コバルトを使用しないことは、上記の問題を回避できる上、モバイルバッテリーなどが燃える原因がこのコバルトであるため、これを採用しないだけで、出火のリスクを大幅に低減でき、安全性が飛躍的に向上しています。

さらに、リン酸鉄リチウム電池は自己放電率がリチウムイオン電池と比べ低く、低温下でも放電率が低いため、長期保管にも最適です。

・使用感

本製品は、リン酸鉄リチウム電池を採用したモバイルバッテリーですが、それ以外に特筆すべき点は一切ありません。

まとめて充電(パススルー充電)なる機能もあるが、充電速度は壊滅的

性能的にも USB-C 出力は20Wと、スマートフォンを充電するためのW数として、近年主流の25Wにも対応しません。

また、USB-A ポートに関しても、使用する人は減少傾向でしょうし、ワイヤレスイヤホンなどを充電できる低電流モードも、イヤホン側が要求するW数が上昇し、近年では必要性が薄れた機能です。

さらに、USB-C と USB-A ポートを同時に使用した場合、C&Aの合計出力が20Wとなっています。USB-C ポートから USB-PD 出力が失われる上、両ポート共に USB-A の一般的な上限である12Wにも届かないため、2台同時充電の速度は驚くほど低速です。

その反面、本製品の12,000mAhという容量は、現在主流の10,000mAh近辺の製品よりも充電回数に余裕があり、iPhone 14 Pro を約3.5回充電することができます。これは、年々大型化するスマートフォンのバッテリー容量に応えることができ、近年では程よいサイズだと感じました。

・総評

購入は推奨できない製品。

本製品の完成度を端的にいうと、こうなります。リン酸鉄リチウム電池や使用感が云々という前に、USB-PD 規格に準拠しない点は看過できるものではありません。特に、2020年代ににもなって、パワールールという基本的な仕様すら遵守できていないのは、いかがなものかと思います。

これにより、互換性の問題が生じ、一部のデバイスを充電できないなどのトラブルが発生することが容易に想像でき、モバイルバッテリーに求められる安定した電源供給機能を有しているとはいえません。

また、実使用においても、20Wの USB-C 出力というのは、25Wなどと比較して充電速度の面で劣り、今から購入することはオススメできません。

モバイルバッテリーの購入を検討している方は、他の製品を検討してはいかがでしょうか。

DE-C39-12000WH

Error(Copyrighted Image)