みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

以前、私は「Apple 製品の再値上げは近い?過去の為替変動による製品価格変更の歴史から考察」という記事を書きました。

基本的には私の直感と過去の動向、気休め程度の政経の知識で書いた、いってしまえば「適当な記事」ですが、意外にも反響が大きく、さまざまな感想を頂戴しました。

今回は、そんな前回の好評に味をしめて逆パターン。すなわち、昨今の円高によって Apple 製品や App Store の価格が下げられるのではないか?という話をしたいと思います。

・そんな甘い話はない

結論からいって、多少のドル安円高になったとしても Apple 製品が値下げされるということはないでしょう。

本稿執筆時点では、129円まで円高が進むこともあるなど、150円を超え、日銀砲が打たれた頃を思えば随分と円の価値が回復したように思います。しかし、円高とはいえ過去の1$=¥75の時代を思うと、どこが円高なんだといいたくなる人は多いと思います。

現在、Apple は製品販売用のレートを約135円に設定しており、このレートは原則として長期間固定されるものであり、頻繁に変更されるものではありません。

現在の製品販売用レートは、130円台前半を推移する現在の市場レートとほとんど変わらない水準となっています。しかし、このレートは2022年秋の新製品発表のタイミングから適用されている価格であり、それ以後に$1=¥150を記録したことを考えると、短期間とはいえ Apple は為替でかなりの損を被っているものと考えられます。

また、2022年3月以降の円安による損失も考えれば、日本だけで2,000億円以上の損失を出していると推定されるため、この損失の穴埋めが終わるまでは Apple 製品が値下げされることはまずないでしょう。

・注視すべきはドル円だけではない

Apple の価格設定において、最も重視される通貨は USD であることに間違いありません。

しかし、他国の通貨、とりわけユーロ、人民元に対する円安も考慮の対象としなければなりません。その理由は、転売ヤーの存在であり、彼らは日本で仕入れた Apple 製品を他国で販売して利益をあげています。一見すると、そんな方法で利益がでるのかと疑問に思う商売ですが、日本の外国人に対する免税措置と円安によって、自国の販売価格よりも安く Apple 製品を販売するということが可能になっています。

裏を返せば、このような危なっかしく、素人でも思いつくような雑なスキームの商売がビジネスとして成立するほど、現在の円安は深刻なものだともいえます。

本稿執筆時のユーロ円は約¥144、人民元が約¥19と、こちらも円安であり、その他のほぼ全ての通貨に対しても円安という状態です。実際、EU圏および中国での製品販売価格と日本での販売価格を比較すると、製品によっては数万円の価格差が存在します。

すなわち、全通貨に対する円安が収まり、製品転売だけで利益をあげられる状況が収まらない限り、製品販売価格の値下げは行われないでしょう。これは、各国にリセラーやキャリアが存在し、各社と取引がある以上、彼らを守らなければならない責任が Apple に生じるためです。

また、Apple が SIM フリー版 iPhone の販売を一部の国に限定していた時代には、中国をはじめとするアジア各国から転売ヤーが日本に押し寄せ、Apple Store で乱闘騒ぎを起こすなどの事態も発生しました。

この結果、日本国内での SIM フリー版の販売が数年に渡り中止されるなどの影響が生じ、一般消費者が不都合を被る事態となりました。

そのため、日本国内での秩序ある製品販売環境を保つために、あえて価格を維持し続けることも十分に考えられます。

・その時はいつか

仮に、円安が収まり以前のような水準となった場合、Apple 製品の値下げは確実に行われるでしょう。

製品価格は売上や販売台数に直結する問題であり、Apple としても各国通貨に対するドル高はデメリットの方が多い状態です。そのため、意味もなく現在の製品用レートを維持し続けることはないでしょう。

しかし、これまでのドル高で失ってきた利益を回収し、本来得られたであろう利益を計上するまでは Apple というか株主は満足しないでしょう。これは、業績報告の場で売り上げが下がり続ける日本とアジア太平洋地域について、その理由が為替であることをわざわざCFO直々に説明した経緯を考えれば、それだけ株主からの圧が強く、利益回収は行われて当然だと認識されているからでしょう。

そのため、以前のように$1=¥110程度になったとしても、利益回収のために現在の製品販売用レートが1年程度は継続される可能性があります。しかし、これでは顧客からの理解が得られないため、¥125程度まで落として2年間程度維持の後、その時の市場レートに近い金額まで製品販売用レートを調整するという手法を取るのではないかと思います。

そのため、円水準が以前のようになったとしても、最低でも1年間は価格が維持され、値下げが実施されてもわずかである可能性が極めて高いと考えられます。

・値下げ待ちはありか?

「少しでも可能性があるなら、その時までは待ちたい」という値下げ待ちの方も多いことでしょう。

いずれ下がる時はくるにしても、それは数ヶ月〜2年という単位では望めないかもしれません。いつかくるその日を待っている間にも、デバイスの劣化は進み、技術の進歩による陳腐化も進行します。そのため、2021下半期〜2022年の間に購入されたデバイス以外は、3〜4年が経過した段階で適宜交換していくべきでしょう。

また、為替が正常化されたとしても原材料費の値上がりなどで、結局は販売価格が据え置かれるという可能性もあるため、値下げどころか値上げされるパターンすら考えられます。

事実、$1=¥128台に突入したのにも関わらず、値下げどころか販売価格がさらに1万円引き上げられた MacBook Pro 14/16 2023 を見れば値下げ待ちという行為がいかに無意味なものであるかは明白です。

この辺りは個人の考え方次第ではありますが、いくら待っても待っただけ無駄になったということが十分に考えられるため、値下げ待ちはしない方が良いでしょう。

・割と最悪な状態に陥ったか

筆者の個人的な予測を書いている本記事ですが、こうして書いてみると「割とヤバい状態に陥っているんだな」と再認識させられました。

近頃は、AppleのセルフリペアプログラムがEUでも拡大されたことを受けて、「これからの時代はスマホも修理して長く使う時代だ!」などという斜め上の理論を展開している方もいます。しかし、修理できる権利という問題を除けば、修理などせずともデバイスの買い替えが老朽化に対する最も有効で効果的な手段であるはずです。

にも関わらず、この話が日本と関係ないにも関わらず国内で大々的に取り上げられた背景には、やはりデバイスの販売価格の上昇が挙げられるでしょう。事実、この頃妙に「みんな iPhone SE で十分論」を展開する人が増え、買う、買わないを別にして、iPhone をはじめとするデバイスの値上がりを金銭的負担と感じている人は多そうです。

また、今春に各キャリアが行なっていた「iPhone 13 1円販売」も総務省ブチギレ案件と化し、さらに端末販売に制限が設けられる方針にもなってしまいました。さらに、未確定要素として増税もスタンバイしており、値上げの兆候は見えるが値下げの希望は全くないように見えます。

すなわち、現在日本の Apple 製品販売を取り巻く環境は過去最悪ともいえる状態であり、製品を購入するタイミングとしては最悪ともいえる状況でしょう。また、この状況が今後数年間継続することは想像に易く、悪化すら覚悟しなければならないのかもしれません。

最終更新日:2023年1月22日