みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

今回は先週の IIJmio meeting 18 でも紹介されていた、eSIM のお話をしたいと思います。
IIJmio meeting では Apple というか、Apple Watch のことは「それをすると話が終わってしまう」と言われてしまうほど MVNO 業界にとっては因縁深く、あえて避けられていましたが、私は「あえて」Apple 製品と eSIM のお話をしたいと思います。

そもそも、SIM とは?というところから書いていきます。 

・そもそも SIM カードってなんだっけ?

SIM カードというとひと昔前までは、あまり大衆的ではなかったワード、というより物でした。しかし、IIJ のような MVNE/MVNO の普及、大手キャリアが販売する端末の「SIM フリー化」原則化、量販店などで販売されるようになった「SIM フリー端末」のおかげか、以前より SIM というワードの認知度は上がっています。

じゃぁ、その「SIM」って、そもそもどういうものだっけ?
という説明にもってこいなのがこれ。SIM カードとはどういうものか。がわかりやすく解説されています。

・SIM カードは、物理的には非接触型 ICカード(ICC)として規格化されているもの

・移動通信端末の加入者識別用途として利用するための企画に則った ICC のことを「UICC」と呼ぶ

これらを簡単に要約すると、SIM カードとは「国際規格に則って作られた、携帯電話加入者の情報を識別するもの」です。この世界的に統一された規格のお陰で、(端末の対応周波数は除いて)SIM フリー端末があればどこの国の SIM カードでも使え、電話番号や携帯電話契約時に選んだプランが端末に反映されるというわけです。

・eSIMは必ずしもSIMカードレスというわけではない

eSIM というと、「従来の SIM カードの代わりに端末に SIM 機能が内蔵されている」と思いがちですが、IIJ さんに言わせれば少し違うようです。

そもそも eSIM とは、UICC(SIMカード)の中で、OTA によるリモート SIM プロビジョニングの標準化に対応した SIM のことを指すようです。要は、docomo から IIJ に乗り換える。という時に SIM カードの抜き差しをせずとも、乗り換え元/先の事業者が遠隔で SIM の契約情報を更新できる機能を搭載した SIM。

これができれば「eSIM」と呼べるということですので、従来通り SIM カードスロットに入れる SIM でもこの機能に対応していれば「eSIM」と言えますし、Apple Watch や iPhone のような SIM カードレスの端末もこれができれば「eSIM」対応といえます。

しかし、Apple SIM のように標準化されていない独自の規格で「eSIM」を扱う例も出てきています。

・リモート SIM プロビジョニングの標準化は進められている

遠隔での SIM 情報の更新ができるものを「eSIM」と呼ぶことは先述の通りです。

しかし、Appleのように独自の規格を策定してしまい、メーカーやキャリアによって仕様がバラバラになってしまうのではないか?と心配しがちですが、遠隔からの SIM 情報の書き換え、すなわちリモートSIMプロビジョニングの標準化は現在進行形で進められています。

現時点で、リモート SIM プロビジョニングの標準化を進める GSMA が策定した標準化規格は16年1月に策定されたウェアラブルデバイスなど向けのv1.0と、同年11月に策定されたスマートフォン向けのv2.0。現在、年内のv3.0の策定に向け動いているようです。

なお、v3.0策定に向け、以下のような QRコードを用いた SIM 情報書き換え手段の提供も検討されているそうです。

今、ご紹介した標準化規格は全てコンシューマ向け。

すなわち、我々一般消費者の利用を想定して策定されるもの。あくまでも簡単に設定ができるということが重要視されており、(一部の詳しい方を除いて)専用アプリや設定から複雑な設定を読み込ませてという方法は受け入れられないことから、QR コードのような誰にでもわかりやすい方法での SIM 情報の書き換え方法が模索されているようです。

実際にこの方法が採用され、eSIM 端末が増えれば、携帯電話事業者の変更や、海外に渡航したときに面倒なキャリアプロファイルの設定変更などが、もっと手軽になることが予想できます。

・仮に iPhone が eSIM のみになっても MVNO で使える可能性は十分にある

さて。ここからが今回の記事の本題、「eSIM」とAppleについて。

先述の通り、Apple は iPhone や Apple Watch Series 3 Cellular モデルで独自の eSIM 規格を採用しています。
しかし、その裏でリモート SIM プロビジョニングの標準化が進み、今後この規格に則った端末の登場が予想されます。

そうなった時に、Apple だけが独自規格を走り続けられるのでしょうか。特に今の Apple が。
先ほどの、コンシューマ向けリモート SIM プロビジョニングの標準化の基本理念にはこう書かれています。

1. 世界的規模で運用可能なこと
2. SIM ベンダー、プロビジョニング基盤、デバイス、OS について、最低限既存の SIM と同程度の相互運用性を有すること
3. 既存の SIM と同程度のユーザーエクスペリエンスが提供されること
4. 常時1つの事業者の SIM プロファイルのみが有効となること、利用者が事業者の SIM プロファイルを入れ替えられるようにすること

などを含む全8つの基本理念が、リモート SIM プロビジョニングの標準化にはあります。

とりあえず、1つ目の「世界的な規模で運用可能なこと」については Apple は全世界に販路を確立していますし、その販路だけで(売れる売れないは別にして)世界人口の90%近くはカバーできることが予想されるため、eSIM 対応の Apple 製品が出ても台数と販路の力で、これはどうにかなりそうなものではあります。

しかし、3〜4はどうでしょうか。
Apple Watch や Apple SIM で2と4はある程度の要件は満たしていますが、「既存の SIM と同程度のユーザーエクスペリエンスが提供されること」については現状では満たせていないと私は考えています。もちろん、この基本理念が指すユーザーエクスペリエンスがどのような意味で使われているかにもよりますが、既存の SIM と同等程度というのであれば、iPhone の販売契約を結んでいる事業者以外の MVNO などでも eSIM 搭載の iPhone が使える選択肢を提供するべきです。

おそらく、現時点で Apple が独自の規格を採用しているのは GSMA が策定していたv1.0/2.0が自社の製品に採用するには不適合であったか、規格の完成度が採用に踏み切れる段階ではなかったからではないかと私は考えています。この頃の同社は、ワイヤレス充電に Qi を採用したり、Thunderbolt 3 の端子形状に Type-C を採用するなど、独自性がある程度は残るもののオープンな規格への転換を積極的に行なっています。

それを思うと、近い将来発売されるであろう「eSIM」対応の iPhone が GSMA が策定する規格に則ったものとなる可能性も十分にあり、MVNO で使える可能性は十分残されているのかもしれません。

・eSIMが新たな寡占化の火種に?

Apple が販売契約事業者以外の事業者の SIM 情報の書き込みができますよ。といっても、販売契約事業者以外の事業者。すなわち、MVNO 側が eSIM 対応をしなければ利用者の選択肢は広がりません。しかし、現段階では eSIM を取り扱う MVNE/MVNO 事業者が、IIJ が成し遂げた「フルMVNO」すなわち自社で SIM を発行できる事業者である必要があるかどうかはわかりません。

もし仮に、eSIM 対応にフルMVNO である必要があるとするならば、それはあまり理想的な仕組みとは言えません。国内に限って言えば「iPhone が使える」というのが通信速度以上に大切だと捉えるユーザーも多く、iPhone の eSIM 化により従来の形態では取り扱えない事業者が出た場合、さらに業界の再編が進み大手 MVNO の独壇場となりうる可能性があり、携帯大手3社による寡占化が緩まってきている中で、MVNO の寡占化という新たな問題を生んでしまいます。

この新たな火種を生むか生まないかは、現状では GSMA が策定するリモート SIM プロビジョニングの標準化の策定にかかっているともいえ、この懸案事項が考慮の対象となるかはわかりませんが、事業者形態の多様化は考慮すべき問題であり、対処する必要がある問題だといえます。

 

もし iPhone が eSIM のみになっても MVNO で使えなくなるというのは考え過ぎだ!
という話題が SIM や eSIM、さらに市場の寡占化の話にまで及んでしまいましたが、何か1つが変わるということの裏にはどんな業界でもドロドロとした面倒なことがあるんだなということはお伝えできたかと思います。もし仮に、eSIM のみの iPhone が登場し、MVNO で使える日が来たのならば、誰かがユーザーのために骨を折り、成し遂げた偉業だと思い出していただければと思います。

最終更新日:2021年12月27日