みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。
今回は、Anker 511 Charger (Nano 3 30W) をレビューします。本製品は、最大30Wの出力が可能な USB-C 充電器で、PPS にも対応した製品となっています。
なお、本記事は筆者が実際に製品を使用して感じた体験および、実際の製品から取得されたデータを基に作成しています。
Contents
・開封
パッケージ
内容物は本体と取扱説明書
本体
端子部分
プラグは折り畳み式
・とても小さい
筆者は、本製品をはじめて手に取った時に筐体の小ささに驚きました。
20W充電器と比較しても高さがやや大きいだけ
Anker 511 Charger (Nano Pro) と比較して、本体のサイズは高さが異なる点以外は、ほぼ同じサイズ感となっています。にも関わらず、プラグは折り畳みが可能な形状になっている上、30Wに出力が向上しており、「30W充電器の小型化もここまでか」と感心させられました。
各種30W充電器と比較
45W充電器と比較
先日レビューした、エレコム EC-AC13WH(45W充電器)と比較しても、15Wの出力差があるとはいえ、ひと回り小さく、エレコムもただでさえ小さいのにそれを凌駕する小ささは、もはや紛失しそうな域のサイズです。
・本体の仕様をチェック
ここでは、充電器の仕様がどのようになっているかを確認します。
Power Data Object(PDO)、USB-PD 以外の急速充電への対応の有無、過電流に対する保護機能の3点を確認し、安全上の問題がないか、景品表示法上の問題がないかを確認します。
PDO および 対応する急速充電規格を確認したところ、PDO は製品の表記などと一致しており、PPS の実装方法にも問題は見られませんでした。
対応する急速充電規格については、USB-PD 以外にも Quick Charge 3.0 などへの対応が見られ、この点は安全性の問題はないものの、厳密にいえば USB-PD 規格には準拠していません。(Quick Charge 4.0 は PPS と同じ)
また、本製品は30W充電器として案内されていますが、アナライザー上では33W充電器として認識されています。これはアナライザー側の仕様で、PPS 対応製品では実際の数値よりも大きな数値が表示されることが多く、製品を問題視する必要はありません。
次に過電流の保護機能が正常に動作するかを確認しました。
過電流に対する保護機能は、異常発熱・出火などを防ぐ目的の保安機能として充電器には必要不可欠なものです。
確認を行ったところ、いずれのV数でも公称値よりも0.6A〜最大0.9A程度高い状態にまで達しないと保護機能が動作していないことがわかりました。
特に20Vにおいては、30W充電器を謳うにも関わらず、最大約42Wまで出力が可能でした。*1
一般的に保護機能のしきい値は、最大で+0.5A程度で設定されることが多く、過去の Anker 製品はもちろん他社製品でもこの近辺で保護機能が動作するように設計されています。
また、PPS対応初期製品では最大1A程度のしきい値が設定されることがありましたが、現在では見なくなり、仕様的にもA数が公称値を超過してもV数が低下する仕様となっているものが大半で(A×V=W)、30W充電器にも関わらず、それを大幅に超過する出力はされないようになっています。
そのため、この仕様での1A近い しきい値は保護機能の しきい値としては高すぎであり、保護機能はあるものの、有用に動作しているとは言い難く、過電流でデバイスを破損させてしまう可能性があります。
なお、この仕様でもデバイス側が USB-PD の規格を厳格に遵守していれば、デバイス側の保護機能により30W以上の出力は引き出されないと推定され、直ちに安全性が脅かされるということはないと考えられます。
しかしながら、この仕様は充電器として改善すべき仕様であり、Anker 711 Charger (Nano II 30W) から全く進歩がなく、確実な安全性が伴っているとは言い難いものです。
もはや、この仕様が Anker 製充電器では標準となっている可能性も否定できず、同社はこの仕様を保安上のリスクとみなしていない可能性があります。
*1 一般的な電気製品の試験に使用される USB-PD 関連試験専用でない負荷抵抗器を使用した場合において
最後に各種デバイスでの充電状況を確認しました。
確認に使用したのは、iPad 9、iPhone SE(第2世代)、iPhone 14 Pro、MacBook Air with M2(MagSafe での充電)で、iPad・iPhone では高速充電が、MacBook Air では正常に充電が作動していることを確認できました。
・使用感
先述の通り、本製品の小ささには非常に驚いています。
一見すると Apple 5W充電器にも見える
また、プラグが折り畳める点も従来までこの機能を捨てて小型化を追求してきた Anker 製としては、非常に気の利いたものだと思います。
製品のコンセプトとしては、非常に使い勝手が良く、スマートフォンから中型のラップトップの充電までこなせる器用な充電器です。そのため、これ1台持っておけば大抵は困らないという人の方が多いと思います。
・総評
オススメはしない。
本製品の完成度を一言で言い表すならば、これがしっくりきます。
30W USB-C 充電器のコンセプトとしては完成形に近く、多くの人が満足できる製品となっていることは紛れもない事実です。この点については、長年のブラッシュアップの成果であり、他社が同じ土俵に立つまではもうしばらくの時間を要する革新的なポイントだと思います。
しかしながら、充電器としての設計が完全かと言われれば「否」であり、過電流保護機能に問題がないとは断言できません。
また、類似製品と比較して高額であり、比較対象として登場したエレコム製充電器よりも出力が小さいのにも関わらず、¥500ほど高く、コストパフォーマンスに優れているとも言い難い製品です。
過電流保護機能以外は、個人の思想・思考によって変化が見られるため一概にはいいませんが、筆者は総合的な観点から他の製品をオススメします。