みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe(@WWDC1999)です。
今回は、いよいよ斜傾してきたAppleの主力商品「iPhone」について…は語りませんが、邪道なiPhoneの登場の裏でひっそりと消えてしまった名機「iPhone SE」について個人的な思い出を踏まえ、綴って行こうかと思います。
iPhone SE登場の背景から本日の消滅に至るまでも合わせて振り返っていきます。
Contents
・2016年3月彗星の如く登場
2016年3月21日(現地時間)。
それまで大型化の道を突き進んでいた「iPhone」が「iPhone SE」の登場により一時的にサイズダウン。Apple史上初のサイズダウンということもあり、その点が大々的に報道された。
iPhone SEは、同年同月31日より日本を含む11カ国で発売を開始、その後台湾などを含む34カ国が加わり46カ国での販売となった。
iPhone SEには前作である「iPhone 5s」「iPhone 6」そして当時最新モデルであった「iPhone 6s」の3モデルの特徴が混在している。iPhone SEの筐体は5sのものを利用。Touch IDやワイヤレスインターネットモデムなどは6、そしてCPUとiSightカメラは最新モデルであった6sと同じものが搭載された。
カラーラインアップとして、ゴールド、シルバー、スペースグレイ、ローズゴールドの4色が準備。ローズゴールドは5sにはなかった新色として、ゴールドは5sよりも黄色味が強くなったゴールドとして販売が開始された。また、5sのエッジに存在した「アルマイト加工」は廃止され落ち着いた印象にもなった。
・史上最高の「名機」誕生の裏には最新モデルの不振があった
iPhone SEを語る上で無視できない存在がある。
それは、iPhone SEが登場する数ヶ月前に発表された「iPhone 6s」だ。
iPhone 6sはiPhone 6の後継機として、iPhoneのフラッグシップモデルとしてAppleが満を持して投入した最新機種だった。
しかし、iPhone 6sは「6から代わり映えしない見た目」「性能向上も控えめ」「3D Touch以外の目立った新機能もナシ」と、iPhone史上最も売れたiPhone 6の後継機種としてはあまりにもお粗末な機種だった。Appleもセールスポイントを見出せず「変わったのはその全て」という理解不能なキャッチフレーズと4K撮影が可能になったカメラで6sを押し売りしていた。また、6sに搭載された最新CPU「A9」プロセッサーが製造メーカーによる性能差があるとして、大きな問題にも発展した。
幸い、新色ローズゴールドやプロモーションビデオへのPerfumeの起用も功を奏し、女性やPerfumeファンには比較的受け入れられ、史上最低の販売数となることは免れた。
・iPhone SEの登場により6sの不振が確証に
iPhone SEリリース直後にiFixitが実施したティアダウンやその他の検証で、SEに搭載されている「A9」プロセッサーの製造日がSEの発表日時よりも半年以上前であることが発覚する。酷いものではiPhone 6s発表前のものもあったようだ。これは、2週間以上在庫を保持しないというAppleの流通管理の鉄則が大きく崩れていることを証明すると同時に、iPhone 6sの販売に息詰まっていることを証明してしまった。
しかしながら、iPhone SEは2017年に最も売れたスマートフォンランキング(Android含む)で3位となるなど、販売数を順調に伸ばし、A9チップの製造日も無事にAppleの鉄則である「2週間」の壁を破ることができた。iPhone 6sも同じA9チップを搭載しているとはいえ、iPhone SEのお陰でA9チップの流通・在庫量が改善されたことに間違いはないだろう。
・発売直後の価格改定により泣かされた人が続出
iPhone SEの苦い思い出といえば、発売3週間後の価格改定だろう。
予約開始日に予約し、発売日に受け取ったユーザーに関しては返金措置は行われず、最大¥5,000もの余分な差額を払うこととなった人が続出。
未だにAppleはこのタイミングで価格改定を行った理由を説明していないが、iPhone SEにとっては最大の事件だったと言えるだろう。
・iPhone 7登場までの間、iPhone史上最高のスペックを誇った
先述の通り、iPhone SEにはiPhone 6sでも採用された「A9」プロセッサーが搭載されている。
iPhone 6sと同じプロセッサーを搭載したために発生した矛盾もあった。
それは、フラッグシップ機であるはずの「iPhone 6s」よりも廉価版の「iPhone SE」の方がベンチマーク性能が高いという矛盾だ。
A9チップの在庫量を減らすために作られたと言っても過言ではないiPhone SEだが、6sと同じチップを使っている上に画面サイズが6sよりも小さいということが影響し、一般的に6sよりもやや性能が高い6s Plusの性能をも凌駕してしまっていた。また、6sと同じ2GB RAMの搭載もこの結果に大きな貢献を果たしてしまった。
この結果、GeekBenchなどのベンチマークサイト上で最も性能が高いiPhoneは「iPhone SE」だというAppleからすれば思いもよらない結果が数ヶ月に渡り掲載される結果となってしまった。しかし、それも「iPhone SE」を名機と呼ぶに相応しい理由だろう。
・発売から1年後容量の刷新が入る
iPhone SEは発売当初こそ、16GBと64GBという構成であったが2017年3月22日以降は32GBと128GBという容量構成に変更され、より使い勝手の良いラインアップに変更された。
価格に関しても従来の価格を据え置いたため、実質的な値下げとなった。
・MVNOや大手キャリアのサブブランドからも積極的に販売される機種に
iPhone SEは、docomo、au、SoftBankといった3大キャリアからも販売されたが、他のiPhoneと比較して特筆すべき販路の違いは「MVNOやキャリアのサブブランドからの販売もあった」ことだろう。
先陣を切って、Y! MobileとUQモバイルが取り扱いを開始し、その後大手キャリアの傘下となったMVNOが続々と販売を開始するという現象が起きたのはiPhone SEが最初といって良いだろう。その後、国外整備済み製品の取り扱いを開始するブランドなども登場し、MVNOのiPhoneというイメージを担ぐことにもなった。
しかしながらiPhoneの取り扱いを巡り、キャリア、キャリアのサブブランド、キャリア傘下のMVNOと、独立経営のMVNOとの格差も生じ「MVNO業界の寡占化」という新たな問題を露見することにもなった。
・後継機種の噂が浮上 しかし叶わず
2017年の年末頃から2018年上半期にかけて「次期iPhone SE」に関する噂が急浮上。
iPhone Xライクな説、外見はそのままでスペックをiPhone 7と同等にする説など、様々な噂が浮上し専用ケースやガラスフィルムまで作られるところまで盛り上がった。しかし、最有力発表日時とされていた2018年3月、6月に発表されることはなく、直後に「AppleはiPhone SE 2の生産計画をキャンセルした」というiPhone SEユーザーにとっては非情な情報が流れていた。
結局、その後「iPhone SE」に関する情報が新たに出ることはなく、2018年9月12日、2年5ヶ月22日(905日)の歴史に幕を下ろすこととなった。
・「名門」Apple最後のiPhone
iPhone SEが終売となり、「名門Apple最後のiPhone」「iPhoneの正統な血を引く後継者」であった「iPhone」はこの世から姿を消すこととなります。
こちらについては様々な異論が生じるところではあると思いますが、iPhone 6以降はTim Cook 体制でデザインされたiPhoneですし、廉価版のiPhoneを「iPhone XR」に切り替えたということも、かつて名門と呼ばれたAppleの「iPhone」が終焉を遂げたと言えます。
iOSのサポート打ち切りという最後の日が来るまで「iPhone SE」は生き続けますが、そう遠くない日に姿を消してしまうこととなります。
iPhone SEは、Tim Cook体制となった「Apple最後の良心」であり、天才Steve Jobsの忘れ形見とも言える機種でしょう。世界的に見て、販売数やユーザー数こそ振るわなかったものの日本や途上国では一定の支持を受け、愛された機種であるということに間違いはありません。
・Let’s talk about the Future.
明るい未来が残されていないように思う「iPhone SE」ですが、少しだけ未来の話をしてみましょう。
まもなくリリースされる次期iOS「iOS 12」にiPhone SEは対応しています。今回、iPhone 5s以上のiPhoneが「iOS 12」に対応しており、5sに至っては今回のアップデートが5世代5年目の継続アップデートの提供となりました。
もし仮に、iPhone 5s同様5世代5年目のサポートが約束されるのであれば、iPhone SEは「iOS 15」までは最新のOSを使用できるということになります。現状のリリースペースが守られた場合、「iOS 15」は2021年9月のリリースとなり、翌年の22年9月に「iOS 16」がリリースされるまではセキュリティ上などでは問題なく使用できます。
ただ、唯一問題となりそうなのが「バッテリーの劣化」。
昨年、社会問題にもなったiPhoneの性能抑制問題ですが、これらの問題は全て内蔵バッテリーに起因する問題です。
仮に、2021年までiOSがサポートしたとしてもバッテリーが健康的な状態である保証や可能性は極めて低く、発売当初にiPhone SEを購入したユーザーは既に交換を検討する時期に差し掛かっています。さらに、2018年内まで、Appleはバッテリー交換費用の値下げを実施しており、¥3,300でバッテリーを新品に交換することができます。
なお、2019年からは¥5,500となることが発表されていますので、iPhone SEで限界まで戦いたいという方は年内に交換することを推奨します。
・個人的な戯言
終売になったiPhoneを振り返るという時点で、お察しかと思いますが、筆者はiPhone SEユーザーの1人です。
しかも、発売後直ぐに購入して使用しているクチですので、かれこれ2年半くらいiPhone SEを愛用しています。
AppleがiPhone SEをラインアップから削除し、後継機種も絶望的な状況であることに私は恐怖を覚えています。一部の方はご存知かもしれませんが、私はiPhone、iPadの「出目金カメラ」を嫌う「古き良きApple」が好きなユーザーです。というよりもSteve Jobsが好きな人かな。
現状では、カメラがフラットに戻ることもなさそうですし、MacのWebカメラすら出目金になるのではないかと戦々恐々としているのですが、最も恐れていることはiPhone SEの後継機種が見当たらず、これまで課金してきたコンテンツが全て無意味なものになってしまうことです。昔からMacを含めAppleに極度に依存してきたツケがそろそろやって来そうな予感がしています。
周りからも「そろそろ諦めれば?」と言われ続けていますが、どうしても諦める気にはなれません。このまま自分が納得できる後継機種が出なければ、コンテンツを野垂れ死なすか最大の妥協をするかの2択となるかと思いますが、コンテンツを腐敗させる可能性と戦いつつもAppleのコンテンツに課金し、「iPhone SE」で限界まで戦い続けようと思っています…。