みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

今回は、Anker より販売が開始された Anker 711 Charger (Nano II 30W) をレビューします。本製品は、最大30Wの USB-PD 出力が可能な USB-C 充電器で、MacBook や iPhone・iPad の他、PPS にも対応しているため Quick Charge 4.0 デバイスなども充電できる製品です。

タイトルで既に結論が見えていますが、2022年の Anker 製充電器のレビュー2本目にして、とんでもない製品がまた登場しましたよ。というお話です。(今年の地雷率100%)

・開封

パッケージ

内容物は本体と取扱説明書

本体

プラグは折り畳めない

USB-C 出力口

・驚異的なサイズ

本製品は、30W充電器としては同社最小が謳われています。

実際、Anker 511 Charger (Nano Pro) (20W充電器)と比較しても、筐体のサイズはひと回り小さく仕上がっています。

ほぼ同じサイズに見えるが

本製品(左)が僅かに小さい

高さはやや高い

これは、30W充電器の中で最小サイズに文句なく分類できるもので、古い30W充電器をお使いの方であればその小ささに感動すら覚えるかもしれません。

・本体の仕様をチェック

ここでは、USB-C ポートの Power Data Object(PDO)と USB-PD 以外の急速充電への対応の有無、過電流に対する保護機能の3点を確認しました。

PDO は表記よりも大きい値の場合、デバイスを過電流により破損させる恐れがあり、小さい場合は景品表示法上の問題が生じます。また、USB- PD 規格では USB-PD 以外の急速充電への対応を禁止しています。過電流に対する保護機能は、異常発熱・出火などを防ぐ目的の保安機能として実装されています。

問題のある製品の場合、主にこのいずれかのポイントで問題点が露見するため、本誌ではこの3つの検証結果を主に使用しています。

確認の結果、両ポートともメーカーが提供する PDO と実際の PDO が一致しており、問題点は見当たりませんでした。また、PPS の実装方法についても問題は認められませんでした。

ただし、Anker 製品ではお馴染みの USB-PD 以外の急速充電への対応が本製品でも見られました。その上、これまでの製品よりも Samsung AFC や Huawei FCP などへの対応も見られ、規格違反の点数は増加しています。また、本製品は PPS にも対応しているため、Quick Charge 4.0 対応機種への充電もサポートしています。

なお、これらの急速充電規格の実装方法に問題は見受けられなかったため、安全性への影響はありません。

次に、過電流に対する保護機能の動作状況を確認しました。

確認の結果、保護機能の実装はなされているものの、いずれも公称値を1A以上超えなければ保護機能が動作しないことがわかりました。特に20Vに至っては、2A以上超過した段階でしか保護機能が動作せず、最大14V/3A=42W(公称値+12W)の出力ができてしまうなど、正常な動作をしているとはいえないレベルです。

過電流(電気の使いすぎで、電線や器具の許容電流を超えて電気が流れること)は、最悪の場合デバイスを破損させてしまう可能性、内部基板やケーブルの焼損、周辺への引火などの重大事故を引き起こす可能性があります。

PPS 対応充電器は保護機能動作のしきい値が高い傾向にありますが、本製品のしきい値はその中でも群を抜いて高いものです。小型筐体・最大30W出力を想定して設計されているであろう本製品において、これが好ましい設計とは思えません。(そもそも本試験では PPS の出力は要求していない)

最後に、MacBook Air 2018、iPad 9、iPhone SE(第2世代)での充電状況を確認します。

確認の結果、MacBook Air で充電、iPhone・iPad で18W/20Wの高速充電が作動していることを確認できました。

・使用感

近年、本製品のように小型を謳う30W USB-C 充電器が増加傾向にあります。

本誌でも、その1つである BELLEMOND Ultra Mini 30W をレビューしました。この製品は、小型の割に発熱が少なく驚かされましたが、Anker 711 Charger (Nano II 30W) に関しては、そこそこの発熱を覚悟する必要があります。

本体の最も熱い部分で60度前後を記録

温度チェックのため約1.5時間、30W出力を継続したところ本体の温度は60度近くになり、素手で触ることはあまりお勧めできない温度となっていました。ノートパソコンの充電など、30W出力が数時間継続されることは通常使用でも十分に考えられる環境であるため、取り扱いには注意が必要だと思います。

また、本製品はプラグが折り畳めない充電器であり、持ち運ぶ用途にに対し最大限の考慮がなされているかと言われれば、否です

折り畳めないと使用場所が固定されがち

筆者が極度にプラグが折り畳めない充電器を嫌っているというのもありますが、一見すると小型に見える本体も、プラグ部分が出っ張るので手に取るとそこまで小ささは感じません。また、持ち運び時に他の物と接触して傷や破損の原因になることもあるため、プラグは折り畳めるに越したことはないでしょう。

・総評

安全性に重大な懸念があり、購入する理由が見つからない

本製品の完成度を端的に言い表すなら、これが最もしっくりきます。従来よりもより増加した USB-PD 以外の急速充電への対応、過電流保護機能のガバガバさを見れば理由は明らかですが、それ以外にも本体の造形が汚い(バリが残っている)、接着剤が外部へ漏れ出ている、新品なのに既に傷があるなど、複合的な問題が山ほど存在します。

USB-C 充電器黎明期ならともかく、2022年においてこの完成度はお世辞にも良いものとはいえず、同社や他社を含めてもっと良い製品がありますので、そちらを選ぶべきだと思います。

最終更新日:2022年7月6日