みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

今回は、Apple の製品価格と為替の関係について、どのような関係があるのかをご紹介します。

この記事は、一般的なユーザーは特に読む必要はないものですので、Apple の為替に対する考え方に興味がある方や、暇な方がお読みいただければと思います。なお、筆者は経済学や経営学を学んだ訳ではありませんし、投資家への参考情報として書いているわけではありませんので、「そういう意見もあるのね」程度に捉えていただくのがちょうど良いと思います。

また、本記事で使用する為替レートは記事執筆時点のものです。

・7月1日の衝撃

Apple は、2022年7月1日に全製品の価格改定を行い、軒並み20%の値上げに踏み切りました。

これは、2022年3月後半ごろより深刻化している対ドル円安の影響であり、製品販売価格の他、各種サービス費用(修理)など Apple が徴収することができるほぼ全ての項目で値上げが行われました。ただし、この時点では App Store のティア1価格に変更は加えられていません。(後述)

価格改訂前の使用為替は、1 USD=110 JPY (approx.) となっており、改定後は約 1 USD=125 JPY (approx.) となりました。

・改定価格も既に限界に達している

先日、1 USD=125 JPY となった Apple の製品価格用為替ですが、改定からわずか2週間で既に破綻状態にあります。

FX民歓喜のグラフ

というのも、2022年7月14日には 1 USD=139.11 JPY を記録しており、既に市場レートと最大14円もの差があります。

上記のレートを米国で $799 で販売されている iPhone 13 に当てはめると、約¥111,000となります。価格改定後の iPhone 13 の販売価格は¥117,800であることから、既に大差がない状態にまで詰められています。

その上、外国人は消費税の免税を受けることができるため、課税前の価格である¥107,091で iPhone 13 を購入することができます。なお、Apple 直営店での免税取扱は終了しましたが、量販店などでは制度を利用できるため、旅行者が iPhone を免税で購入するということはさほど難しくないでしょう。

そのため、国外への製品転売を阻止するという目的も含んだ今回の価格改定の効果は、かなり薄れており、破綻しているといっても過言ではないでしょう。

・トルコの例を見ると

Apple は為替変動に非常に敏感な会社です。

これは、2021年11月24日に発生した、対ドルのトルコ リラ安の例を見れば明らかです。

よくネタにされる通貨ではあるが…

当時、トルコ リラが1日で-15%という驚異的な下落を見せました。それにより、Apple は即座に Apple Online Store を停止し、翌日の Apple 直営店の営業も中止されてしまいました。

この事態は、最新の為替を反映した製品価格に変更した後、営業を再開するという対応で落ち着きましたが、その2週間後には App Store のティア1価格の変更も行われました。

その他にも、2020年3月24日には円高が進行し(1 USD=105 JPY)、多くの国で製品販売価格が引き上げられる中、日本のみ10%の値下げが行われるということもありました。

このように、Apple は常に為替の動向を敏感にチェックしており、自社の利益を守る姿勢を貫き続けています。

・ただ

Apple は為替変動に非常に敏感な会社です。

しかしながら、2011年10月ごろのような異常な円高(1 USD=75.32 JPY)になったとしても、製品価格の引き下げには消極的です。

この際、Apple は製品価格用為替を 1 USD=100 JPY に設定しており、海外旅行で製品を買わない限り、円高の恩恵を最大限に享受することはできませんでした。

こういった面からも Apple が自社の利益を守る姿勢を貫き続けていることがわかります。

・10%を超えると価格改定が行われる?

為替に敏感なことは十分に理解していただけたと思いますが、Apple はどの程度であれば許容しているのか?は非常に気になるところです。

結論からいえば、10%前後が目安だと考えられています。日々変動がある為替とはいえ、急激に10%もの増減をするのは、かなりのレアケースであり、通常であれば±10%に近づいてきた段階で、価格変更の検討をおこなっているでしょう。

そのため、米ドルに対し10%程度の為替変化が見られた場合は、価格改定が近いと覚えておくとよさそうです。

なお、価格改定後のレート(1 USD=125 JPY)と現在の市場レートを比較すると10%以上の下落であることから、次期 iPhone が出るまでにもう一度価格改定(値上げ)が行われても、何ら不思議ではありません。

また、1日に10円を超える円安となった場合、トルコ同様に Apple Online Store の停止や直営店の営業停止が行われるでしょう。

・App Store の価格に変動がない?

Apple は製品価格以外にも為替を反映させる場所として、各種コンテンツへの課金があります。

その代表例が App Store や同社のサブスクリプションサービス Apple Music などです。しかし、現時点ではこれらに価格変更が加えられることは案内されておらず、ティア1価格(App Store における有償最低価格)は¥120($0.99)が維持され続けています。

この¥120という価格については、2019年10月1日の日本における消費増税により一部引き上げられたものであり、為替を反映した価格変更は2013年ごろから行われていません。

また、製品用為替との価格差も元から¥5と小さく、製品販売価格ほど為替の影響を強く受けて来なかったため、現時点では変更されていないのかもしれません。ただし、昨今の為替の状況や App Store 運営への強い風当たりなどを考えると、こちらも値上げを避けることはできないでしょう。

記事執筆時点では値上げは発表されていませんでしたが、2022年10月5日よりティア1価格を値上げすることが発表されました。

従来まで¥120だったアプリが¥160へと変更されます。

・株主的には納得

Apple は2022年Q2で、日本だけでも700億円近い利益を為替で吹き飛ばしているという予想もあり、今回の価格改定を評価している株主の方は多いのではないでしょうか。

事実、上記の決算が発表された場でも、日本およびアジア太平洋で売上が降下している理由が為替であることを Apple CFO Luca Maestri(ルカ・マエストリ)氏が説明しており、大多数の株主が為替による売上高の減少を気にしているのは事実でしょう。

ただし、価格改定の影響で販売台数が減少することは当然考えられる事態であり、価格改定を行ったからといって売上が増加するというわけではないでしょう。

また、急激な為替変動と全世界的なドル高は Apple が今後数年間頭を抱える問題にもなりそうであり、中・長期的に同社の売上や株価に与える影響は依然、不明瞭であり、投資家の不安材料であり続けるでしょう。

通貨安/高は世界情勢や国内情勢に大きく左右されるものであり、対処や解決には政治的決定が不可欠です。

そのため、「Apple が為替の損益を被っている」という状態は、経営リスクとして考慮すべき事案ではあるものの、いわば筋違いな損害とも言え、それを埋めるための値上げを行うのも無理はありません。

・次の価格改定のタイミングは?

タイトルや先に書いた通り、製品価格の再改定は非常に現実的なものであり、「行われるのか?」というよりも「いつ行われるか」という段階にあります。

今回の価格改定も Apple は例年、9〜10月に新製品を発表するため、「価格改定を行うのは新型 iPhone の発表と同時」という予想が業界内では多数でした。しかし、7月1日に突如、価格改定を行なっていることから、何らかの新製品が出なくとも価格改定が行われても不思議ではありません。

むしろ、現在の為替を見る限り、「今秋の新製品の大幅値上げは当然」であり、「それ以前にも現行製品の値上げがある」と考えておいた方が良いと思います。

この日程や戦略については Apple Japan しか知る余地がない話ですので、具体的なタイミングを言い当てることはできません。しかし、「明日にでも行われてもおかしくはない」ということだけは理解しておくべきだと思います。

・影響はない?

ここまで散々、Apple の製品価格改定について書いてきましたが、個人的には「影響を受ける人は少ないのでは?」と思っています。

というのも、最もポピュラーな Apple 製品である iPhone に限って言えば、キャリアが「1円〜1万円」でばら撒きをしています。そのため、「発売日に欲しい or 対象外の iPhone が欲しい」という人以外は、そもそも iPhone を定価で購入していないのではないかと思います。

また、外貨収入があったり、インフレーションに対する手当てが出たり、業界が好調でボーナスが過去最高などという理由で、定価購入であっても影響を感じない人も一定数は存在すると思います。

そのため、世の中が騒ぐほど、今回の価格改定の影響はないのではないか?と個人的に思っています。

とはいえ、Mac や Apple Watch となると影響をモロに受けるため、これらを使うユーザーにとって頭の痛い話であることは変わらない事実でしょう。

最終更新日:2022年9月23日

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