みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。
この記事では、近年増殖傾向にある15W出力のモバイルバッテリーやACアダプタがどのようなものなのか、USB-C 充電器では一般的な20W充電器と何がどう違うのかをご紹介します。
2つの違いは充電速度の違い
15Wと20W(18Wや25W、それ以上を含む)の最大の違いは、充電速度にあります。
「そりゃ、15より20の方が数字が大きいんだから当然じゃん」と思われがちですが、実用段階ではこの5Wの差はかなり大きなものとなります。
例えば、iPhone の「30分で50%以上の充電」は、18W以上の充電器を必要とし、15Wで充電した場合30分で50%の充電はできません。
そのため、両者を横並びで比較すると15W充電の遅さが際立ち、充電の遅さにイライラさせられます。
この理由は、両者が対応する充電規格の違いにあり、15Wはかなり古い規格であり、現在の主流は20Wの方になっています。
2つの規格の違い
15Wと20Wは充電速度が大幅に違い、その理由は規格にあることは先の通りです。
では、これらが具体的にどう異なるかを簡単に解説します。
左が USB-A 端子、右が USB-C 端子
15Wは、USB Battery Charge(USB-BC)という規格に対応しているもので、従来の USB 充電の主流(USB-A)であった5V/2.4A(12W)を5V/3A(15W)までに拡大し、端子を USB-C 化したものです。そのため、充電速度の向上はごく僅かで、規格登場直後はあまり採用が見られませんでした。
20Wなどは USB Power Delivery(USB-PD)という規格に対応しています。この規格は、従来までの充電上限である12W(5V/2.4A)を大幅に拡大し、最大240Wまでの充電に対応し、充電速度が大幅に向上しました。
『と、言われてもよくわからん」という方の方が多いと思いますので、15Wは在来線、20Wは新幹線といえば少しわかりやすくなるのではないでしょうか。
2023年現在、東京 – 大阪間の東海道新幹線 のぞみ の最短所要時間は2時間21分であり、同じ区間を東海道新幹線が開業する前は、6時間30分もかかっていたそうです。
実際に比較してみる
東京 – 大阪間を在来線で移動するか、新幹線で移動するかという例を出されたとて、「概念は理解できるけど、まだ漠然としたもの」だと思います。
それならば、15W充電と20W充電の充電速度を実際に比較してしまえば良いだけの話であり、実際に検証を行った結果が以下です。
ついでに12W(2.4A)と30Wの結果も添えておきます
iPhone 15 Pro(iOS 17.0.3)を使用して、バッテリー残量が0%の状態から30分間でどれだけ充電できるかの比較を行ったところ、15Wが44%、20Wは57%と、13%もの差がありました。さらに、1時間地点では15Wが75%、20Wが87%と、おおむねその差は開いたままとなりました。
また、トータルの充電時間(0 – 100%)で見ると、20W充電器は1.5時間で充電が完了したのに対し、15W充電器は同じ地点で95%、満充電には1時間50分を要しました。
トータルの時間で20分の差にしかならないのは、バッテリー残量が70%を超えた段階でバッテリーの劣化を抑制するために、充電速度が落とされるためです。
この結果を見れば、15Wと20W充電器の差は明らかであり、20W充電器を選ぶべきであることが明白です。
*これらの数値は本誌により計測されたもので、環境により変動します。あくまでも参考程度にお考え下さい。
なぜ近年になって増殖したのか
先ほど、「15W充電は規格登場直後はあまり採用が見られなかった」と書きました。
事実、USB-BC が15W対応になり、対応製品が登場し出したのは2017年ごろのことで、翌年の2018年ごろより iPhone も Lightning 経由の USB-PD 充電に対応するなど、たった1年で高速充電規格の主流が USB-PD に遷り変わった経緯があります。
そのため、最高充電W数が15Wとなる製品はごく僅かとなり、結果的に15W充電の天下はほぼ無かったに等しい状態です。
Anker 323 Power Bank (PowerCore PIQ) とかね
そこで疑問に思うのは、「当時は採用が進まなかったにも関わらず、なぜ2023年にもなって対応製品が増加しているのか?」ということです。
これは、あくまでも筆者の憶測に過ぎませんが、「とりあえず C なら良い」という消費者需要に応えた結果だと思われます。
近年、あらゆる電子機器が充電端子に USB-C を採用し、iPhone も iPhone 15 よりそれに続きました。そして、これらのデバイスに同梱されているであろうケーブルの大半は USB-C – C(両端が USB-C 端子)のものであり、USB-C 充電器を持っていない場合、新たに購入する必要が生じます。
そうなった時に、頼られがちというか、暗躍しがちなのは100円ショップ(100円かどうかはさておき)であり、次点で Amazon などの安価な充電器でしょう。
アクセサリを製造するメーカーも「そんなことは百も承知」な訳ですから、とにかく安価な USB-C 充電器を作ろうとします。
その結果、20Wよりも安価に製造することができ、USB-C 端子をつけることができる15Wが重宝されるという訳です。
USB-C ポートはあるものの、充電は MicroUSB とかいうヤベェ奴もある
一見すると、一般消費者の足元を見る舐め腐った行為ですが、消費者も価格を追求し過ぎた結果を享受しているだけともいえるため、昨今の15W充電器の増殖は市場原理に基づいた結果ともいえるでしょう。
また、ACアダプタ(コンセントに刺す充電器)よりもモバイルバッテリーにこの傾向が顕著に見られるのは、熱により性能が低下するリチウムイオン電池(モバイルバッテリーの中身)の熱制御を行わなければならないためで、この管理にはそこそこのコストがかかるため、価格とパフォーマンスを両立させたい場合、15Wで妥協すると、メーカーにとって都合の良い製品ができがちなのが関係しています。
オススメは30W
ここまで読んで頂いた方なら、15W充電器は避けるべき代物だということはわかっていただけたと思います。
「ならば、20Wの充電器を買えば良いのね」となっていることかと思いますが、筆者は30Wをオススメしています。
その理由は、2022〜2023年に発表されたスマートフォンの多くが25W〜30Wの充電に対応しているからです。そのため、既に20Wでもパワー不足(=充電速度が遅い)となっている場合もあり、これから購入するのであれば、30W出力ができる製品を選んだ方が、不満なく長期間使用できるでしょう。
とはいえ、現時点で熱管理の関係からか30W出力ができるモバイルバッテリーはごく僅かで、存在はするものの性能が悪かったり、価格が高かったりと、万人にオススメできる状態にはありません。
そのため、ACアダプタは30W、モバイルバッテリーは20W〜25Wという環境を構築するのが現時点では、最も安定した充電環境を作り出せるでしょう。