みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。

今回は、cheero Power Plus 5 10000mAh をレビューします。本製品は、最大18WのUSB Power Delivery(以下 USB-PD)に対応した、モバイルバッテリーです。

本製品は、安全性に重大な懸念事項があり、購入を一切推奨できない製品です。購入・使用にあたっては、ユーザー自身の自己責任となります。

近頃、Kojigen power bank 10000mAh (Black) として製品およびブランド名を変えたバージョンが販売されていますが、販売元のティ・アール・エイ株式会社は cheero ブランドを運営する会社であるため、本製品のリネーム製品と推測できます。

・開封&レビュー

パッケージ

内容物は、本体、本体充電用ケーブル、取り扱い説明書。

本体

本体のポートは、左からType-C、USB-A。出力ボタンは本体左側面に配置。

底面には本体の仕様が記載

・充電状況をチェック

はじめに USB 電流チェッカーを使用し、電流の可視化を行います。
ここでは、本製品が Apple の高速充電(18W)に対応するかを確認します。

iPhone 8 接続時 9.06V/1.48A の出力を確認。

iPhone SE(第1世代)接続時 5.09V/1.03A の出力を確認。

確認の結果、iPhone 8/8Plus/X 以降の iPhone および2017年以降の iPad Pro シリーズと iPad Air 3、iPad mini 5、iPad 9 以降の iPad が対応している、高速充電に対応していることがわかりました。また、Type-C ポートは iPhone SE(第1世代)などの高速充電非対応デバイスの充電にも対応します。

・本体の仕様をチェック(USB-C)

ここでは、USB-C ポートの Power Data Object(PDO)と USB-PD 以外の急速充電への対応の有無、過電流に対する保護機能の3点を確認しました。

PDO は表記よりも大きい値の場合、デバイスを過電流により破損させる恐れがあり、小さい場合は景品表示法上の問題が生じます。また、USB- PD 規格では USB-PD 以外の急速充電への対応を禁止しています。過電流に対する保護機能は、異常発熱・出火などを防ぐ目的の保安機能として実装されています。

問題のある製品の場合、主にこのいずれかのポイントで問題点が露見するため、本誌ではこの3つの検証結果を主に使用しています。

本製品の販売ページや本体底部などには、5V/3A, 9V/2A, 12V/1.5A(最大18W)USB-PD 3.0 対応と記載されています。

確認の結果、両ポートともメーカーが提供する PDO と実際の PDO が一致しており、問題点は見当たりませんでした。また、付属のケーブルについては USB 2.0 ケーブルとなっており、規格に沿ったものとなっています。

しかしながら、PDO の中にある 12V/1.5A は、USB PD Revision 1.2 で対応を義務付けられていた項目で、最新版の Revision 3.0 では、これに変わり15Vへの対応義務化へと変更されています。

ただし、出力が 18W までの製品が15V出力に対応する義務はありませんので、規格違反ではありませんが、他の 18W 出力対応製品が 15V/1.2A での 18W 出力を設定していることを考えると、仕様的に他の製品に劣るといえます。

この影響で、接続互換性に影響が出る恐れもあり、最新のデバイスを中心に充電ができない/充電電圧が低いといった症状の発生も考えられます。

また、USB-IF では、USB-PD 充電器に PD 以外の急速充電への対応を禁止しています。

しかしながら、cheero Power Plus 5 10000mAh は Quick Charge 3.0、HUAWEI FCP/SCP、Samsung AFC への対応が確認されました。これは、USB-IF の定める PD のルールに違反しており、厳密には規格違反品として取り扱われます。

ただし、安全性に影響がない形で実装されており、この形での実装方法は一般的であるため、保安上の問題はありません。

・本体の仕様をチェック(USB-A)

次に、USB-A ポートの動作をチェックします。
まずは、充電規格の確認から。

検証の結果、Apple 2.4A、Android 2A、USB-BC に対応していることが判明。

最後に、過電流に対する保護機能の動作状況を確認しました。

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過電流保護の作動状況を確認したところ、仕様では最大 5V/2.4A となっているところ、最大 3.19V/3.77A(12W)になるまで保護断が動作しないことも確認しました。これは、USB-IF が定めるいずれの USB 規格にも適合しない出力で、保護断は存在するものの正常に動作しているとは言い難い状態です。

・2ポート同時出力中の挙動を確認

次に、本製品の Type-C ポートと USB-A ポートを同時に使用した場合の挙動を確認します。

視認性向上を目的とし、USB-Aチェッカー画面を反転。

確認の結果、Type-C ポートが 5.18V/1.38A(7.15W)、USB-A ポートが 5.09V/0.80A(4.07W)の合計 11.22W の出力を確認できました。なお、本製品の合計出力は 18W である為、接続するデバイスによっては、さらに出力が高くなるものと考えられます。

・実効容量をチェック

最後に、モバイルバッテリーとしての性能を表す、実効容量のテストを行います。

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検証の結果、公称容量の 10,000mAh に対し、実効容量が 29.47Wh(7,964mAh)(-20.0%)と変換ロス値標準ラインの -20% ギリギリを記録する結果となりました。

近年の製品や他の cheero 製品と比較すると、やや低い値ですが、ある程度はエネルギー効率に優れた製品となっていることがわかります。

・過電流は看過できない深刻な問題

本製品の USB-A ポートは、仕様上での最大出力は 5V/2.4A(12W)になっているにも関わらず、実測値で 3.19V/3.77A(12W)に至るまで、安全機能が動作しませんでした

これは、過電流(電気の使いすぎで、電線や器具の許容電流を超えて電気が流れること)を誘発する原因になり、この状態で使用を継続した場合、内部基板やケーブルの焼損、そこからリチウムイオン電池や周辺への引火を伴う重大事故を引き起こす可能性があります。

・明らかな実力不足 手放しの賞賛には疑問

他所で行われている本製品のレビューを見ていると、ステマかの如く手放しの賞賛が行われているケースが目立ちますが、私はこの姿勢には疑問を感じます。

そもそも、実力不足以前の話として、USB-PD 規格に準拠しない点や、USB-A ポートの保護断が正常に作動しない時点で、製品としての安全性には疑問が付きます。

さらに、本製品の比較対象として、ほぼ同等構成の Anker PowerCore 10000 PD(合計28W出力)が使用されていますが、比較対象として不釣り合いであることも無視できません。PowerCore 10000 PDの最大出力は C&A ポート合計で28W。すなわち、Type-C ポートと USB-A ポートを同時に使用しても、各ポートの最大出力は維持される構成となっています。

その反面、本製品は2ポート同時使用中は Type-C ポートの出力に制限がかかります。現状でも、ポート毎に最大出力が維持される製品がリリースされていることを考えると、本製品の出力仕様(合計18W)は周回遅れといえ、技術的に他社に劣っているといっても過言ではありません。

この仕様を cheero では「安全のため」と案内していますが、他社が最大28Wを実現している以上、これはできない言い訳にしか聞こえません。

・総評

今回も、上記の通りの規格違反が認められました。

巷では、「安心・安全の cheero 製!」などと、まともな検証も行わずブランド指名買いを推奨している人もいます。しかし、USB-PD 製品では、どのメーカーも確実な製品を製造・販売している状況とは言えず、本製品もそれを示す結果となりました。

既に、お察しの通り、本製品の USB-PD 機能は USB-IF の策定する Power Rule に違反している上、USB-A ポートの安全装置が正常に動作しているとは言い難い状態であることから、安全性を担保できない、購入を推奨することはできない製品です。

最終更新日:2023年8月30日

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