みなさま、こんにちは。Kazuto Tanabe です。
読者のみなさまは Satechi 200W USB-C 6-PORT GAN CHARGER という製品をご存知でしょうか。この製品は、CES23 で発表された Satechi 最新のフラッグシップ USB-C 充電器で、USB-C 充電器史上初と思われる6ポートの USB-PD ポートを搭載した USB-C 充電器です。
今回は、その Satechi 200W USB-C 6-PORT GAN CHARGER を購入しましたので、Satechi 充電器のレビュー請負人として、責任を持って日本最速レビューをしておきたいと思います。
なお、本製品は本稿執筆時点では日本国内では販売されておらず、購入には個人輸入が必要となります。さらに、後述しますが、日本国内での使用も全く考慮されていませんので、本製品の購入および使用は完全な自己責任となります。
・開封
パッケージ
内容物は本体、電源コード、スタンド、取扱説明書
本体
本体裏面にはゴム脚付き
USB-C ポート
各種表記とコネクタ部分 PSEマークはない(クリックで拡大)
スタンド使用時
電源プラグは3芯型
電源ケーブルにはフェライトコア入り
前作で不評だった目潰し青色LEDは廃止され、輝度の低い白色LEDへ
・日本国内での使用は全く考慮されていない
本製品の詳細なレビューを進める前に、日本国内での使用について触れておこうと思います。
先述の通り、本製品には日本国内での販売に必要な PSE マークが記載されていません。従来の同社製充電器には日本国内での販売の有無を問わず、PSEマークの記載がありましたが、今回からは省略されています。
そのため、日本国内での使用そのものに関しては問題ありませんが、万が一、本製品が原因となる火災事故などが発生した場合に、輸入責任者が購入者となり、全ての責任を負う必要が生じます。これにより、火災保険など各種保険の適用外となる可能性がありますので、注意が必要です。
また、Satechi の国内未発売製品で見られる転売や使用後の再販についても、電気用品安全法違反となり、「一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」との罰則規定に抵触する恐れがあります。
これらの法的・事務的問題以外にも、そもそも本製品に付属する電源コードのソケット部分は3芯プラグとなっており、一般的な日本のコンセントは2芯対応ですので、使用には変換アダプタが必須となります。なお、ケーブル自体を交換してしまうという方法もありますが、付属ケーブルを使用した方がベターであるため、この手段は避けた方が無難でしょう。
これは余談ですが、ここまで日本国内での使用が考慮されていない仕様を見るに、日本国内で販売する計画は全くなく、使用に関しても責任は一切取らない方針かと思います。
・本体の出力仕様がカオス
本製品のリリース時、公式アナウンスとして、USB-C 1 および 2が USB-PD EPR に対応すること、6ポート使用時の出力仕様が 65W/45W/20W/20W/20W/20W となることが案内されていました。
筆者はこれをみて、「その他の詳細は発売時に明らかにされるのかな?」と思っていましたが、その後の案内は特になく、手元に製品が届いています。同社は、他の製品では出力仕様をまとめた図を用意しており、本製品にもそれが用意されるものだと思っていました。
しかし、いざ製品を手に取ってもパッケージなどにもその記載がなく、頭に「?」が浮かんでいましたが、取扱説明書にその答えが書かれていました。
出力仕様一覧(クリックで拡大)
説明書を開いてびっくり、本製品には61種類も出力パターンが存在し、説明書の大部分がこれを紹介するために割かれています。これには、流石にドン引きせざるを得ず、いくらなんでも複雑怪奇すぎないか?と頭を抱えています。
過去に Anker の USB-C 充電器の複雑な出力仕様に嘆いていましたが、本製品はそれを凌駕しています。
・最も一般的な使い方は?
出力仕様が複雑怪奇を極めており、文章で全てを説明することは無理ですが、ざっと見た感じで押さえておくべきポイントと便利そうな組み合わせをご紹介しておきます。
まず、本製品最大の特徴でもある最大140W 出力が可能な USB-PD EPR に対応したポートは、PD 1 と PD 2 ポートのみです。また、複数ポートを同時に使用した場合に140W出力ができるのは、PD 1/5/6 の 140/20/20Wの組み合わせが最大です。
なお、本製品の最大出力である200Wは、PD 1/2 の 100/100Wの組み合わせのみで機能します。最も利用される機会が多いであろう6ポート使用時は、65/45/20/20/20/20Wの合計190W出力となります。
これだけ USB-C ケーブルを持っている人も珍しいような…
これらを総合すると、MacBook Pro 16(140W)を充電する場合は、MBPと iPhone、iPad の合計3ポート同時使用が限界、MacBook Pro 14 は2台同時高速充電が可能、全ポート使用時は MacBook Pro 13(65W)、MacBook Air/iPad Pro 12(45W)、iPhone、iPad(残りの20W)という使い方が限度となります。
個人的には、いかなる場合でも PD5/6 からは 20W出力が可能であるため、140W出力をしながらでも iPhone、iPad を高速充電できるのは利便性に優れているポイントだと思います。
とはいえ、かなーり無理をしている感が否めず、全ポート使用に関しては「4つも20Wって、いらなくない?」と思っています。
・本体の仕様をチェック
ここでは、USB-C ポートの Power Data Object(PDO)と USB-PD 以外の急速充電への対応の有無、過電流に対する保護機能、USB-PD EPR 周りの4点を確認しました。
PDO は表記よりも大きい値の場合、デバイスを過電流により破損させる恐れがあり、小さい場合は景品表示法上の問題が生じます。また、USB- PD 規格では USB-PD 以外の急速充電への対応を禁止しています。過電流に対する保護機能は、異常発熱・出火などを防ぐ目的の保安機能として実装されています。
問題のある製品の場合、主にこのいずれかのポイントで問題点が露見するため、本誌ではこの3つの検証結果を主に使用しています。
確認の結果、全ポートともメーカーが提供する PDO と実際の PDO が一致しており、問題点は見当たりませんでした。また、eMarker の識別もできており、USB-PD EPR 対応ケーブル、5Aケーブル、3Aケーブルを区別し、それぞれで出力する PDO が異なることも確認できました。
対応する急速充電規格についても、Apple 2.4A だけにとどめられており(Quick Charge 4.0 は PPS と同等であり、PPS に対応する場合は表示が付く)、PPS の実装方法にも問題は見られませんでした。この点については、規格になるべく沿う設計となっており、好感が持てます。
なお、PD 3〜6 において、アナライザー上では105Wおよび22Wと表示されていますが、PPS 対応製品は実際の数値と表示される数値が異なる場合があり、充電器側の問題ではありません。
次に、過電流に対する保護機能の動作状況を確認しました。
確認の結果、各所で公称値を大幅に超過する出力が許容されていることがわかりました。
特筆すべきは、PD 1&2 の140W出力、同じポートの5Aケーブル使用時の100W出力、PD 1〜4の3Aケーブル使用時の60W出力の3点です。
140W出力は、28V/5Aが公称値となっており、USB-PD 規格上も28Vの最高値は5Aとなっています。にも関わらず、6Aの出力が可能であり、最大出力も166.8Wと公称値である140Wを26.8W超過しています。同ポートの100Wと60W出力に関しても、公称値から1Aの超過が見られ、W数では28W、20Wずつ超過しています。
1Aを超える超過は保護機能を有しているものの、有用に動作しているとは言い難いもので、過去の同社製品と同様に +0.5A程度の しきい値に収めるべきだと思います。
とはいえ、USB-PD 規格を厳密に遵守した製品であれば、必要以上の電力が引き出されるということはありません。また、+27Wの超過も、このクラスの充電器の余分としては常識的な範囲内だといえ、問題視するようなレベルではないのかもしれません。
なお、複数ポート使用時の保護機能動作に関しても、同様の問題は見られるものの、それ以外に問題はないと推定されます。
最後に、MacBook Air with M2、iPad 10、iPad 9、iPhone 14 Pro、iPhone SE(第2世代)での充電状況を確認します。
確認の結果、全てのデバイスで高速充電が作動していることを確認できました。
また、全ポート使用時や200W出力時でも本体温度は60度以下となっており、低温やけどの恐れはあるものの、USB-C 充電器としては常識的な範囲の発熱です。また、製品特性上、肌に触れることは少ないため、問題とすべきものでもないしょう。
・使用感
単刀直入に使用感を述べるなら、使い勝手が悪いとしかいえません。
iPhone の最速充電速度が27Wとなり、廉価版 iPad が30W充電に対応した昨今において、20Wという出力は使い勝手が悪い物です。
しかもそれが4つも並べられ、残す2つも65Wと45Wという中途半端な構成です。
2ポートの増加にも関わらず、本体サイズの巨大化が凄い
筆者は、Satechi が2023年に245W4ポートの構成の製品を出してくるだろうと予想しており、100/65/45/30W出力が可能な製品を期待していただけに、6ポートかつ200Wは想定外でした。
しかし、いくらこれが筆者の妄想であり、非現実的なものであったとしても、今回の仕様はイマイチ昨今のデバイスの情勢を反映しておらず、センスに欠ける製品のように思います。
また、Satechi 165W USB-C 4-Port PD GaN Charger と比較すると、4ポート使用時の出力仕様が微妙に異なっており、本製品は100Wの恩恵を受けることができるようになった反面、30W出力*2を失うという、使い勝手が向上したのか低下したのかよくわからない状態となっています。
本製品は欲張り過ぎた節があり、「どちらか一方を選べ」と言われた場合、筆者は確実に165Wを選ぶでしょう。
さらに、本製品より採用された出力分配機能も、接続されたデバイスに応じた出力ができるとされていますが、その恩恵をどこまで被っているのかは不明で、普通に使う分にはそもそも実装されているのかも判断のしようがありません。
・結局どうしたのか?
筆者は本製品購入前より Satechi 165W USB-C 4-Port PD GaN Charger を愛用しており、さらには Satechi 108W USB-C 3-Port GaN Wall Charger もモバイル用として所有しています。
そのため、本製品購入前より十分な充電環境が整っており、本製品の必要性もさほどありません。とはいえ、史上初の6ポート製品という歴史的価値や今後の比較対象として有用であることもあり、手元でなんとか使用したいと考えました。
ですが、先の検証の結果、過電流保護機能に不安がある上に、PSE マークがなく、完全な自己責任の下で使用しなければならないという点が非常に引っかかっています。
これらの問題がなければ、MacBook Air、iPad 10、iPad 9、iPhone SE(第2世代)、Apple Watch、Apple Watch という組み合わせで使用できたと思います。この使い方であれば、MacBook Air 以外は最速での充電となり、最も効率的に使用することができました。
本製品のリリース当初から、あまり購入には乗り気ではありませんでしたが、実際に製品を手に取ると想像以上にイマイチで、現時点では使用されず、放置状態となっています。
・総評
地に足ついておらず、全くもってオススメはできない。
本製品の完成度を端的に言い表すならば、これくらいが丁度良いと思います。過電流保護機能が十分でないことや、出力配分が複雑怪奇を極めていることなど、普通に使うにも苦労が多い製品です。
本製品最大のウリである6ポート使用時の挙動も、十分な出力を提供していると言えるものではなく、165W版よりも使い勝手が低下しているように感じました。
これらに加え、そもそも日本国内での使用が想定されていない点、送料および輸入時の消費税の課税により¥25,000(執筆時:$1=¥130)を超える金額となる点も、「無難な USB-C 充電器が欲しい」という需要には全く当てはまらないように思います。
ここまでの無理を重ねて、充電器を1台に無理矢理まとめる必要は皆無であり、多くの人にとってあまりにも現実離れした製品だと思います。
・200W USB-C 6-PORT GAN CHARGER